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京都家庭裁判所 昭和54年(少ハ)2号 決定 1979年8月03日

少年 T・R(昭三七・一〇・一〇生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

理由

一  本件申請の理由

少年は京都家庭裁判所の昭和五二年一二月二一日初等少年院送致決定に基づき宇治少年院に送致され、昭和五三年四月二五日一般遵守事項のほか、特別遵守事項として、(イ)帰住先の指定、(ロ)京都保護観察所への出頭日時の指定及び(ハ)夜遊びをしないこと、(ニ)行いの悪い者とつき合わないこと、(ホ)無免許運転をしないこと、を定められこれを遵守することを誓約して仮退院し、京都保護観察所の保護観察下に入つた。しかるに

(1)  仮退院当初から就労意欲は極めて乏しく、たまたま職を得ても旬日を経ずして職場を捨て、ほとんど毎日を徒食の状態で過し、

(2)  仮退院直後から終始いずれも非行歴をもつ多数の素行不良者と交友し、翌朝の三時、四時までもの夜遊び、無断外泊を重ね、

(3)  昭和五三年一〇月頃からは覚せい剤を絶え間なく使用し、多い月には一か月二〇ないし三〇本の使用に及び、これに要する資金は父から数十万円をせびり、少年の要求に応じない祖母や姉に対しては暴力を振い、つばをかけたりしていやがらせをし、

たもので、以上はいずれも一般及び特別遵守事項に違反するものであることは明らかである。これは少年の社会性の未熟さや怠惰な性格によるものであるが、保護観察官や担当保護司の指導に対しても従わず、保護者である父も少年の行状について事実を隠蔽し、あるいは虚偽の報告をするなど監護者としての姿勢は全く認められず、家族のうちにも監護を委ねられる者は見当らない。その他社会内処遇について更生保護会とか協力雇用主へ預けることについても、少年の心身の状況、非行への親和性、保護者の協力の姿勢、交友関係等を考え併せると、現段階においてはその可能性は認められない。

以上の次第で少年院に戻して収容し、少年の心身を癒し反省を求め、退院後の受入環境についても時間をかけて調整するのが処遇上もつとも妥当な措置と思料し、犯罪者予防更生法四三条一項の規定によりこの申請をする。

二  当裁判所の判断

本件記録及び調査、審判の結果によると、上記申請の理由のとおりの事実が認められるが、とりわけ昭和五三年秋頃から始まつた覚せい剤の使用は相当回数に上り常軌を逸したものであつて、そのため家族の者に金を強要し、要求に応じないと祖母に対してまでも暴行を加える有様であり、父が入院した昭和五四年四月頃からは昼間は家で寝ており、夜九時頃から出かけ翌朝二時ないし四時頃友人二、三人を連れ帰る毎日であり、七月になつてからは特にひどくなり、友人までが金品を物色して家のタンス、机などをひつかきまわす状態であつた。そのため家庭に安静はなく、祖母、姉らは少年の収容はやむをえないとの心境である。少年は覚せい剤の使用は友人らの強迫によるものである旨弁解し、少年が現在の状況に立ち至つたことには友人らの働きかけが大きな原因をなしていることは認められるけれども、それに同調し更に上記のような乱れた怠惰な生活に発展した少年自身の性格、精神面にも多大な問題があるというべきであつて、在宅保護での更生は期待し得ないというべく、少年院に戻し再度強力な矯正教育を施すのが相当であると思料する。なおその場合短期処遇では充分な矯正教育を施すには期間が不足し妥当性を欠くものと考える。

よつて、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条、少年院法二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 宮地英雄)

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